物語みたいなもの
最初に、村上春樹なる作家を村上春樹と呼ぶべきか、村上春樹氏と呼ぶべきか、はたまたいち面識もないんだけど、村上春樹さん・村上さん・春樹さんなどと呼ぶべきか、一応はいろいろと考えて迷った挙げ句、村上春樹と敢えて敬称なしで書くことにした。 なぜ、…
その日は、まったくついてない日で、やることなすこと裏目裏目に出るっていうか、他人の話す日本語がアラビア語以上に難解で意味不明な、なんかもう言葉の通じない動物の中で暮らしてるような気分になっていたんだ。 そんな時って、あるよね? 自分と他人と…
いまさら言うまでもなく、僕は、数学とういものが苦手だ。 それは、試験の点数を見れば明らかではあったのだけれど、でもそこは努力が足りないせいだとか、たまたま教え方がマッチしてないだけだとか、そういった可能性もあるような気がしていた。 しかし、…
ソファーに座ったまま、僕はしばらく身動きもせず、じっとしていた。それは僕が感じていたよりも、ずっと長い時間だったようで、「天井裏に潜むねずみたちの囁きを、ひとことも漏らさずに聞き取ろうとしているかのようだった」と、後々に、彼女はそう言った。
正直なところ、国王は、娘である姫に、 「羊がいなくなっちゃった」 と言われても、うまく事態を飲み込めなかった。 なにかの事情によって、姫が3匹目の羊を数えられないでいる様子は、ドア越しに聞いていたので察するところがあった。しかし、羊を数えられ…
王国に、完全な夜が訪れなくなって、かなりの時が過ぎていた。 なぜなら、姫の羊が逃げたのだ。民たちは、いつまでも眠ることを許されず、疲れ果てはじめていた。 ずっとずっと大昔から、先祖代々受け継がれてきた羊は30匹。今は、国王が11の羊を数え、王妃…
そろそろ、みなさんも気づいていることと思うんだけれど、この物語って、羊が家にやってきた以外なにも進んでないよね。いわゆる、物語らしいわくわくするような展開や意表をつく場面展開だとか、作者である僕が言うのもアレだけど、そんなものが致命的に、…
仕事を終えて、僕は仕事場の駐車場にたどり着いた。外灯の少ない暗がりの中、車屋が教えてくれたナンバープレートの番号を頼りに、車屋の代車を探した。やっと見つけた車は、お世辞にも礼が言いたくなるような車ではなかった。僕の180センチ近い体を乗せるに…
やっと雪が溶けて、春めいた日々がつづきはじめた頃、職場に向かう国道を走っていると、幾つもの動物の屍骸に出会う。 最初の頃、それは不幸にも車に轢かれてしまった犬か猫だと思っていた。しかし、あまりにもその光景にでくわす回数が多いことと、その大き…
そもそも、羊は何をしに僕のところにやってきたんだろう? という、最初の、根本的なことが解決されていないわけだ。 しかしながら、僕はそれを羊本人に尋ねようとは思わなかった。なぜだろう? だって、相手は、羊だし。言葉を話すようにはまるで見えないし…
よく晴れた秋の休日、僕たちは、気ままな散歩を楽しんでいた。テレビニュースでも盛んに言われるように、今年は紅葉の当たり年らしく、町は見事なくらいに秋らしく、いたるところに、切り取って部屋の壁に飾っておきたいような風景や、一瞬ハッと息を呑んで…
彼女を、それが正しい人称なのか、僕にも自信はないけれど、僕はその羊を家の中に通すことにした。勿論、僕に邪な気持ちがあったわけではないことは、繰り返し断言しておく。
そうだ、僕は、確かに、その羊らしき訪問者にむかって、「チェンジ」と言葉をかけてみたのだけれど、それが聞こえたのか聞こえていないのか、僕には確信がもてない。ただ、なんだか、彼女は(これは僕の思い込みに過ぎないかもしれないけれど、根拠はないも…
待たせていることを申し訳なく感じながらも、ドアを開ける前に、僕は覗き窓から外の様子をうかがってみた。しかし、なにも見えなかった。 僕がドアを開けないので、訪問者はもう立ち去ったってことなんだろうか。それとも、外の闇が深すぎて、見えないだけな…
いつの間にか、僕は、台所のテーブルで、ウトウトと眠ってしまっていたようだった。 誰かが、僕の家のドアを、ノックした。 コン、コン! 最初、僕は、それがドアをノックする音だとは思わなかった。なぜなら、僕の家にはチャイムがついていて、わざわざノッ…
今年はいつまでも暑くて暑くて、いつになったら夏が終わるんだろうなんて心配しながら、10月の衣替えもいらないんじゃないかなんて言ってたら、やっぱり10月には暑さもおさまって、ついこの前まで夏バテ気味でアイスクリームばかり食べてたことも忘れて「食…
いつか君と歩いた神戸の道を黙って歩いていると、僕はいつしかあの頃の僕になっていくような錯覚を覚える。 目の前の角を曲がったら、見慣れたカーディガンを着た君が立っているかもしないと考えるのは、あまりにも非現実すぎるだろうか。
元町の商店街を抜けて、三宮に向かいつつ、北へ北へと歩いていく。どの地点からというのは判然としないし、北へ向かう坂道はその坂道ごとにそれぞれの顔をもっているだろうけれど、ある地点から自分のいる場所が神戸の北野であることを感じはじめる。 基本的…
2012年の8月の終わり、僕はランチタイムを挟んで6時間ほどを、神戸で自由に過ごせるシチュエーションを手に入れた。 大阪で生まれ育った僕は、異人館やメリケン波止場といった有名どころでデートしたことはあるけれど、神戸の街に詳しいわけではないし、ま…