いつの間にか、僕は、台所のテーブルで、ウトウトと眠ってしまっていたようだった。
誰かが、僕の家のドアを、ノックした。
コン、コン!
最初、僕は、それがドアをノックする音だとは思わなかった。なぜなら、僕の家にはチャイムがついていて、わざわざノックをしなくても、誰もがそのチャイムを鳴らすのが常だったから。
コン、コン!
正直、僕はそのノックを無視してしまおうかと考えていた。だって、僕は台所でウトウトしてしまうくらい疲れていて、眠かったわけだし、僕の家を訪問してきそうな予定もなく、誰が来たのか予想もつかなかった。意を決して出てみたら、新聞の勧誘だったなんて、最悪だ。
コン、コン!
しかし、その音は、長い間、職業的に厳しい訓練を受けた末の成果であるかのように、とても礼儀正しい。
乱暴でもなく、控えめでもなく、そのノックは、完璧なノックと呼ばれるべきノックだった。
コン、コン!
そして、なぜだか、ノックをしているものは、僕が部屋にいてその音を聞いていることを知っているように思えた。
コン、コン!
繰り返し何度もその音を聞いているうちに、遂に僕は、誰かがわざわざ僕を訪ねてきてくれた、という気持ちになってきた。それが誰なのかはわからないし、心当たりもない。こんなに礼儀正しいノックをする知り合いなんて、僕には想像もつかない。しかし、それが誰であるにしろ、いつまでも、台所のテーブルに突っ伏して、その誰かを薄暗いドアの外に待たせているわけにはいかない。
そんな気持ちにさせるノックだった。
コン、コン!
僕は、目をこすって目やにがついてないかを確認し、軽く顔を両手で撫で、立ち上がって玄関に向かうことにした。
つづく…羊と僕と王国の譚(2)