深き海より蒼き樹々のつぶやき

Sochan Blog---深海蒼樹

羊と僕と王国の譚

羊と僕と王国の譚(9)

ソファーに座ったまま、僕はしばらく身動きもせず、じっとしていた。それは僕が感じていたよりも、ずっと長い時間だったようで、「天井裏に潜むねずみたちの囁きを、ひとことも漏らさずに聞き取ろうとしているかのようだった」と、後々に、彼女はそう言った。

羊と僕と王国の譚(8)

正直なところ、国王は、娘である姫に、 「羊がいなくなっちゃった」 と言われても、うまく事態を飲み込めなかった。 なにかの事情によって、姫が3匹目の羊を数えられないでいる様子は、ドア越しに聞いていたので察するところがあった。しかし、羊を数えられ…

羊と僕と王国の譚(7)

王国に、完全な夜が訪れなくなって、かなりの時が過ぎていた。 なぜなら、姫の羊が逃げたのだ。民たちは、いつまでも眠ることを許されず、疲れ果てはじめていた。 ずっとずっと大昔から、先祖代々受け継がれてきた羊は30匹。今は、国王が11の羊を数え、王妃…

羊と僕と王国の譚(6)

そろそろ、みなさんも気づいていることと思うんだけれど、この物語って、羊が家にやってきた以外なにも進んでないよね。いわゆる、物語らしいわくわくするような展開や意表をつく場面展開だとか、作者である僕が言うのもアレだけど、そんなものが致命的に、…

羊と僕と王国の譚(5)

そもそも、羊は何をしに僕のところにやってきたんだろう? という、最初の、根本的なことが解決されていないわけだ。 しかしながら、僕はそれを羊本人に尋ねようとは思わなかった。なぜだろう? だって、相手は、羊だし。言葉を話すようにはまるで見えないし…

羊と僕と王国の譚(4)

彼女を、それが正しい人称なのか、僕にも自信はないけれど、僕はその羊を家の中に通すことにした。勿論、僕に邪な気持ちがあったわけではないことは、繰り返し断言しておく。

羊と僕と王国の譚(3)

そうだ、僕は、確かに、その羊らしき訪問者にむかって、「チェンジ」と言葉をかけてみたのだけれど、それが聞こえたのか聞こえていないのか、僕には確信がもてない。ただ、なんだか、彼女は(これは僕の思い込みに過ぎないかもしれないけれど、根拠はないも…

羊と僕と王国の譚(2)

待たせていることを申し訳なく感じながらも、ドアを開ける前に、僕は覗き窓から外の様子をうかがってみた。しかし、なにも見えなかった。 僕がドアを開けないので、訪問者はもう立ち去ったってことなんだろうか。それとも、外の闇が深すぎて、見えないだけな…

羊と僕と王国の譚(1)

いつの間にか、僕は、台所のテーブルで、ウトウトと眠ってしまっていたようだった。 誰かが、僕の家のドアを、ノックした。 コン、コン! 最初、僕は、それがドアをノックする音だとは思わなかった。なぜなら、僕の家にはチャイムがついていて、わざわざノッ…