『その女アレックス』を読み終えて、5日ほど経ったことになる。
噂に違わぬ内容で、一気に読んでしまった。
なんせ、読むなら徹夜を覚悟して『その女アレックス』と、わたしが知らないスゴ本は、きっとあなたが読んでいるでも、絶賛された本だ。
僕の場合は、徹夜ではなかったけれど、朝から読みはじめて、昼寝もせずに読みつづけ、読み終えるまでその本を手放せなかったわけだ。
間違いなく、面白い。
読者のヨミを裏切る見事な展開。
読者は、息つく暇もなく、ページを繰りつづけるしかない。
結末も、意表をつかれた。
僕が言う結末とは、予審判事と主人公である警部との、最後の会話だ。
それは、ありなの?
と、僕は、『公平性』と『客観性』の観点から、違和感を覚えた。
けれど、
「これは、現実ではなく小説なのだ」
と考えた時、ありだな、というか、
「ありだから小説なんだよな」
と思って、僕の中で何かがストンと腑に落ちて、思わずニヤリと笑った。
繰り返すが、間違いなく、いい本だ。
もう一度、読み返せば、もっと楽しめるだろう。
読了した人たちが口々に言うように、すべては、最初から書かれていたのだ。にもかかわらず、誰もが見落としたり、その意味を曖昧にしたまま、もしくは取り違えたまま、物語は進んでいく。
物語が進んでから、僕らは自分たちの誤解に気づく。
もしくは、曖昧模糊だったものの、本当の姿を知る。
それにしても、日を追うごとに、僕はひとりのアレックスという女性が気になって仕方がない。
僕は夢中になってページを繰り、物語を追いかけた。
アレックスが、どんな女かを知りたくて。
事件の『真相』を知りたくて。
けれど、僕は物語や展開にばかり気を取られ、当のアレックスという女を、見逃してきたような気がして、後ろめたい。
この物語は、単なる『事件』ではなく、アレックスという女性の一生を描いたものでもあるのだ。
人の心は、時に、どうしようもなく頑(かたく)なだ。
一旦囚われてしまえば、ひとときたりとも、そこから離れられなくなってしまう。
ある意味、アレックスを誘拐監禁した男も。
また、アレックスに惹かれ吸い寄せられ、その体を求めてやまなかった男たちの欲望も、別の意味ではそうなのかもしれない。
そして、このシリーズの主人公であるカミーユ警部は、数年前に妻を誘拐され殺害された過去をもつ。
みんな、そんなことは、忘れてしまえばいいのに。
当事者でないから、安易にそう言えるのだろうか?
アレックスというひとりの女性を思う時、僕は彼方に視線を泳がせながら、
「そんなことは忘れて、自分の幸せを追いかければよかったのに…」
と、呟かずにはいられない。
とにかく、読み終わって、一度はすっきりしたはずが、あとからあとからジワジワとくる。
あなたもきっと、読了後に、アレックスを思って、溜息を漏らすことだろう。
それだけよくできている。
オススメです。