深き海より蒼き樹々のつぶやき

Sochan Blog---深海蒼樹

ゼルダ・フィッツジェラルドについて(2)

では、あらためて、ゼルダの生い立ちと幼少期から少女期までを簡潔に

生い立ち

 ゼルダフィッツジェラルドは、6人兄弟の末っ子として生まれた。父は、最高裁判所の判事であり、家柄はよく、家庭は裕福であった。
 父は厳格な人であったのだが、ゼルダは快活で自由な娘として育っていく。
 ダンスを習い、バレエを習った。  そして、やりたいことをやりたいように、行動した。やりたいことの幾つかは、いたずらという枠を越え、『事件』と呼ばれるほどのものもあったが、ゼルダにとっては、それはいたずらでも『事件』でもなかった。それは、ただ、ゼルダがそうしたいからそうしただけのことだ。

ある夏の日、退屈したゼルダは消防署に電話をかけて、一人の子供が屋根にのぼったまま下りられないでいると通報し、それから実際に屋根に上り、梯子をはずした。やがて消防車が鐘を鳴らしてやってきて、一人の英雄的な消防士が屋根にのぼって彼女を抱いてたすけ下ろした。
 ただ、それだけのことだ。彼女は、消防士をからかいたかったわけでもなければ、誰かの注目を浴びたかったわけでもない。
 しかし、まわりの者は、彼女に注目しつづけた。それは、彼女の美貌のせいというよりは、わけのわからない彼女の『才能』に引きつけられてのことだ。彼女には、『何か』があった。それは、他の人たちにはないものだったから、時に眉を顰めたり、父のように怒ったり、笑ったり、呆れたりしながらも、彼女に『何か』があることを認めざるをえないし、一度それに気づくとその『何か』から目を離せなくなってしまうのだ。

少女期

 ゼルダは、16歳の春に社交界にデビューした。
 なんて、僕は書いているけれど、「社交界」なんてものがどういうものなのか、僕にはさっぱりわからない。夜ごとのダンスパーティー社交界なんだろうか?
 勿論、とりあえずの美貌と、『才能』をもったゼルダは、男たちにモテモテだった。そして、ゼルダ自身も、男たちの誘いに、積極的だった。煙草を吸い、酒を飲み、男たちとドライブをして、車の中でネッキングをする。
 しかし、その中に、ゼルダの心を鷲掴みにするような男はいなかった。誰も彼女を夢中にさせてくれない。

スコットとの出会い

 ゼルダは、高校を卒業して18歳の誕生日を迎える前の、ある夏の日、スコット・フィッツジェラルドに出会う。
 それは、スコットが、兵士としてキャンプ・シェルダンでの訓練中のことだった。アラバマ州モントゴメリーの街のダンスパーティーで、彼はゼルダを見つけた。そして、なんの躊躇もなく彼はゼルダにアタックした。
 これまでに何度も書いてきたように、ゼルダが口説かれない夜はなかったし、ゼルダにアタックする男は掃いて捨てるほどいた。

「僕は有名になるんだよ」と彼はゼルダ・セイヤーに向かって言った。彼はまるで過去の歴史的事実を復唱するかのように未来を語った。「僕は今小説を書いているのだけれど、この先僕はそれでとても有名になるんだ」
 スコットの口説き文句が、ハッタリや世迷いごとでもなく、現実になることを、僕らは承知している。
 しかし、彼がこの言葉を放った時、彼の予言を保証するものも、担保するものも、なにもなかったはずだ。そして、ゼルダのまわりには、スコットよりも男前だったり、既に金持ちであり今後も金持ちでありつづけることが保証された男たちがいたし、彼女の父がそうであったような立派な頭をもった青年たちもいたはずだ。
「それまで誰も気づかなかったゼルダの中の何かをスコットは揺り動かした。それはスコットにも通じる、ロマンティックともいえる自分自身への誇りだった。」
 男女のことは、その男女にしかわからない。僕がとやかく言うことはなにもない。
 ただ、のちのちになって、当時のスコットの印象を語った、ゼルダの言葉が、すごい。それは、それが現実化することを知っている現在の僕らから見ても、『僕は有名になるんだよ…』で始まるスコットの言葉が、自信過剰で胡散臭く感じられるのとは違って、もっと刺激的で素敵な言葉であるように、僕には思える。
「彼の肩甲骨の下に天上からの支えがあって、それで彼の両足は地面から離れて宙に浮いているように見えました」 「まるで本当は空を飛ぶことだってできるのだけれど、世間の手前いちおう足を使って歩いているんだ、といった感じなんです
 ゼルダとスコットは、恋に落ちた。

 (つづく…)