Amazonから、メールが届いていた。それ自体は、いつもの、購入履歴からのリコメンドであり、別段珍しいことでもない。しかし、今回のメールは、一瞬、僕の目をそこに釘付けにした。だって、そのメールは、僕のメールボックスの受信トレイの中に、こんな風に並んでいたのだから。
村上春樹の新刊 恋しくて - TEN SELECTED LOVE…
「村上春樹の新刊」という文字を見たときには、(えっ? もう新刊が出るの?『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』が発表されたのは、ついこの間の、今年の春だったというのに)と、素直に驚いた。
しかし、Amazonの詳細説明を読んでみると、その内容は、
村上春樹が選んで訳した9編のラブ・ストーリー + 書き下ろし短編小説
ということらしい。- マイリー・メロイ 「愛し合う二人に代わって」
- デヴィッド・クレーンズ 「テレサ」
- トバイアス・ウルフ 「二人の少年と、一人の少女」
- ぺーター・シュタム 「甘い夢を」
- ローレン・グロフ 「L・デバードとアリエット」
- リュドミラ・ぺトルシェフスカヤ 「薄暗い運命」
- アリス・マンロー 「ジャック・ランダ・ホテル」
- ジム・シェパード 「恋と水素」
- リチャード・フォード 「モントリオールの恋人」
- 村上春樹 「恋するザムザ」(書き下ろし)
残念ながら、僕が最初にそんなはずはないと思いながらも、心の底ではかすかに期待した、長編小説の新刊本が出るということではないようだ。
しかし、だ………。それにしても…、『恋しくて』って………、なんだろう?
僕は、どうしたら、いい?
まぁ、それが、村上春樹の長編小説のタイトルでないことがわかって、多少ホッとしたとは言え…、それでも、どうなんだろう?
それが、彼が選出して翻訳した短編集のタイトルであるとしても。どうなんだ?
『恋しくて』
なんだか、CDのジャケットタイトルでは、よく見かけたような気がする。
- 『恋しくてー恋人たちのバラッド特集』
- 『メロディアスジャズ:恋しくて』
- 『癒しのオルゴール:恋しくて』
たとえば、
恋しくて - TEN SELECTED LOVE STORIES
の、STORIESをSONGSに変えて、
恋しくて - TEN SELECTED LOVE SONGS
そして、その陳腐さは、あまりにもなんの変哲もない、陳腐の2乗、陳腐な陳腐さだ。
別の言い方をしよう。このタイトルが僕にもたらしたものは、一抹の口惜しさを伴う違和感だ。こんなにもなんのざらつきも感じさせない、動揺も、心の波紋も起こさない、のっぺらぼうな言葉に対する違和感。
少なくとも、それは、村上春樹の本なのだ。たとえ、それが、コンピレーションアルバムならぬ、村上春樹が選んだ作家たちの短編小説のコンビレーションブックであったとしても。
ほんとうに、このタイトルでいいんだろうか?
ほんとうに、このタイトルしかなかったのだろうか?
恋しくて - TEN SELECTED LOVE STORIES
なんだか、僕は、とっても残念な気がする。
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