ハッカーと呼ばれる人々、もしくは、広義におけるプログラマーといった人々を、羨ましく思った場面がいくつかある。
接する機会のなかったそれらの人々が、僕の知らないところで築きあげてきた世界を、素晴らしいとも思った。
その代表的な言葉が、
Hello, World!とShut the fuck up and write some code!だ。
残念ながらと言うのはおかしいけれど、僕は、文系の人間だ。おそらく、ずっと。
人類を文系と理系に分けなければならない必然などないけれど、「文系か、理系か」と、ごくごくありきたりな質問を受けたなら、僕はいつだって「文系」だと答えてきた。
そんな僕だけれど、理系的なものに興味がないわけではないし、なかったわけでもない。
パソコンを買ったのは、意外に早かった気もする。生まれて初めて買ったのは、MacintoshのPerformaだった。
前の職場では、Ninjaだとか、File Maker Proを使ったこともあった。だけれど、自分が「理系」だと思ったことはなかったし、プログラムを書いてみよう、もしくは、自分にもプログラムみたいなものが書けるかもと思ったこともなかった。
僕(ら)がパソコンやアプリを使うということと、ハッカーやプログラマーがプログラムを書くということは、まったく別物のように思えた。
そんな「文系」の僕が、突然、Webだとか、HTMLだとか、JavaScriptだとか、もう少し背伸びして(言語の難しさではなく)、PHPだとか、Cだとか、そんなものにも触れてみようという気になってしまった。
事の起こりは、4年前だった。僕は、生まれて初めての入院生活を終えて、自宅療養期間に入っていた。体重は、14kg減り、動作は一気に老人になったかのように遅く、わずかな食事を摂るのにも長い時間がかかった。
なによりも、目の前に自由にしていい時間が広がっているというのに、何かをしようという気力が湧いてこなかった。もしくは、湧いても、病後という現実に押し潰されて、すぐに消えていった。
そんな中、僕は書店で「Webデザインの教室」とかいったタイトルの本を手にする。それまで、そんなものに興味があったためしもなかったのに。それよりなにより、インターネットに接続することさえ少ないような生活だったのに。
今振り返ると、自宅でできる何かしらのスキルを身につけた方がいいと、漠然と感じていたのかもしれない。会社の駐車場から会社までの5分の距離さえ、当時の僕は途中で休憩を入れなければ歩けなかったし、職場復帰はとても1ヶ月の自宅療養では成し得ない、遠くにあるもののように思えた。
そんな時だった。
その入り口の入り口みたいな段階で、感動的な、ひとことに、僕は、出会う。
言語初学者が、最初に出力を試みる、あの言葉だ。
Hello, World!
ありふれた、その言葉に、僕は驚き、その言葉が、突き刺さるように、身に沁みた。痛いくらいに。Hello, World!とは、「理系」のくせに、うまいこと言うと、負け惜しみのように思ったことを覚えている。まさに、初めて書くプログラムに、これほど適した言葉はない。
それをきっかにして、僕は、プログラマーの道を歩み始めた。という話ではない。
僕は、相変わらず、「文系」の人間だし、簡単なHTMLタグを打つのさえままならないままだ。
だけれど、僕は、知っている。世界が、そこにあることを。そして、その世界に触れることは、それほど難しいことではないことも。僕が本気でそれを欲するなら。
そして、世界が誰かを拒んでいるわけではない。もしも、望むなら、僕から、もしくは、あなたから、joinすればいい、ただそれだけのことだ。おそらく、「理系」の人たちは、僕が知らなかったずっと以前から知っていたんだろうけど。
Hello, World!
恥ずかしがることはないし、躊躇うこともない。echoでもいいし、printfでも、printでも、document.writeでもいい。
Shut the fuck up and write some code!
つべこべ言わずに、書けばいいのだ。