深き海より蒼き樹々のつぶやき

Sochan Blog---深海蒼樹

森田真生氏の才能に「はぁっ?」となった話(『僕たちはどう生きるか』)

 今朝、ナミアゲハの幼虫が、いつもいるサンショウの木にいなかった。新たに葉を食われたばかりのサンショウの枝だけが、まっすぐ天に向かって伸びていた。あんなにたくさん葉を食べ、ようやく蛹になるところになって、あの美しいイモムシは、蝶になる可能性を宿したまま、なにものかに食われてしまったのだ。あんなに懸命に生き、もりもりと食べ、あそこまで育ち、そしてあっけなく食われた。

 生まれたばかりのエビが、オタマジャクシに食われる。カエルになる手前でそのオタマジャクシもまた天敵に食われる。カエルになり、蝶になる可能性を秘めたまま、その見事な肉体が、潜在する変態の可能性を発揮することなく、なにものかの餌になる。自然のなんと浪費的なことだろう!しかしそうしていのちは淡々とめぐってきた。少なくとも三五億年、生命そのものは、おそらくこの地上で一度も滅びていない。

 長々と引用したのは、森田真生氏の『僕たちはどう生きるか---めぐる季節と「再生」の物語』の冒頭、「はじめに」の章に出てきたものだ。
 森田氏は、2016年に『数学する身体』で小林秀雄賞を最年少受賞、2022年には『計算する身体』河合隼雄賞を受賞している数学者であると、ぼくは認識している。
 たぶん、小説が書けるよね、この人。というか、すでに書いているんだろうか?
 そんなことを冒頭から感じさせられて、うれしいような、ちょっと妬ましいような、そんな気分になったという話です。