お盆の繁忙期が過ぎてほっとひと息といったところで、ぼくにしては珍しく早番シフトがつづいた。7時始まりのシフトだ。猛暑とは言え、いくぶんまだ涼しいと感じる朝のうちに出勤できるのはありがたい。夜の暑さに寝つけずに、あくびを押し殺しての出勤であったとしても、着替えたばかりのワイシャツをすぐに汗まみれにして出勤するよりはずっとマシだ。
会社の駐車場から歩く途中に特急バスの停留所があって、親子と思しき20歳くらいの娘さんとぼくとそんなには年齢のかわらない父親らしき男性が、バスの到着を待っていた。
娘さんの年齢を20歳くらいと思ったのは、自分の娘よりはかなり幼いように見えたからだ。地味な色のワンピピースを着たその姿は、どこか学生っぽい雰囲気を醸し出してもいた。お盆の時期を少しずらしてから都会に帰るということからも、なんだか社会人ではないような気がした。父親らしき男性は白いワイシャツに黒いズボンで、いかにも娘を見送ったあとにそのまま仕事に向かうといった様子だった。
ぼくもそのバス停ではなかったけれど、何度も娘を見送ってきた。
切符はちゃんと持っているかとか、忘れ物はないかとか、なんか言い忘れたことはないかとか、ひと通りの会話は済ませてしまって手持ち無沙汰な時間が流れることも知っている。
「そう言えば、(同郷の)○○ちゃんはどうしてる?」
と、帰省中に何度も繰り返し尋ねたことをまた問いかけて、娘が呆れた顔でぼくを見返したりした。
バスがこのまま来なければいいのにと、父親は思っているだろうか。
幾度も見た、改札の向こうに消えていく娘のうしろ姿が、ぼくの頭に浮かぶ。そしてそのあとしばらくの間、抱えていなければならないなんとも言い難い気持ちのことも。
会社の前にのびたまっすぐな国道を、特急バスが走ってくる。ぼくはバス停を振り返る代わりに、心のなかで小さな祈りを捧げた。
朝日をいっぱいに浴びて静かに輝いたバスが、ぼくの横を通り過ぎていく。